年収アップだけを追った30代後半転職の失敗。失ったものと、本当に見るべきだった点
30代後半、年収アップに固執した転職活動の落とし穴
30代も後半に差し掛かると、キャリアにおける市場価値を強く意識する方が増えてきます。特に、これまで培ってきた経験やスキルが、どれだけ「年収」という形で評価されるのかは、転職を考える上で非常に重要な要素の一つでしょう。私自身も、まさにそう考えて転職活動に踏み切った一人です。しかし、結果的に「年収アップ」だけを追求した転職は、入社後に大きな後悔と学びをもたらしました。
この記事では、私が30代後半で経験した、年収最優先の転職活動がなぜ失敗に繋がったのか、そしてそこから何を学び、転職において本当に見るべきだった点は何だったのかを正直にお伝えします。私の経験が、読者の皆様が自身のキャリアを考える上で、一つのリアルな事例として役立てば幸いです。
なぜ私は「年収」を最優先してしまったのか
私が転職を考え始めたのは、現職での評価や昇給スピードに物足りなさを感じていたことが大きな理由でした。長年勤め、ある程度の成果を出してきた自負はありましたが、それが正当に年収に反映されていないと感じていたのです。また、30代後半という年齢を意識し、「市場価値を明確な数字で証明したい」「家族のためにもっと稼ぎたい」という思いが募っていました。
転職活動を始めるにあたり、エージェントにも「とにかく年収アップが最大の目的です」と伝えていました。複数のエージェントを利用しましたが、どの担当者も私の職務経歴と希望年収を聞き取り、それに合う求人を紹介してくれました。自分自身も、企業の事業内容やポジションの魅力よりも、提示される年収額や理論年収の最大値にばかり目が行っていました。
これが、私が年収を最優先するようになった背景です。当時は「年収が高い=自分の市場価値が高い=良い会社、良いポジション」という、非常に短絡的な考えに陥っていました。
年収交渉のリアルと、最も高提示だった企業への入社
私の転職活動は、幸いにも複数の企業から内定をいただくことができました。その中には、現職から大幅な年収アップを提示してくれる企業がいくつかありました。
特に印象に残っているのは、最終的に入社を決めたA社との年収交渉です。A社は、提示額が現職の年収から100万円以上高い、私にとって最も魅力的な条件を出してくれた企業でした。エージェントを通じて、「他社からも内定が出ており、A社の提示額が最も高いが、これが最終提示か」といった確認や、「もし可能であればもう少し上乗せいただけると、貴社への入社の意欲がさらに高まります」といった交渉を行いました。結果として、提示額の満額回答を得られ、私は迷わずA社への入社を決めました。
この時、私は有頂天になっていました。「自分の市場価値はこれだけ高いのか」「これだけ評価されたのだから、きっとやりがいのある仕事ができるだろう」と信じ込んでいたのです。他の内定企業の提示年収はA社より低かったため、仕事内容や企業の安定性、成長性、社風など、年収以外の比較検討はほとんどせず、「年収が一番高い」という一点でA社を選んでしまいました。
活動期間は約3ヶ月、書類応募数は約15社、面接に進んだのは5社、内定は3社という結果でした。年収交渉は概ね希望通りに進んだため、活動自体は成功だったと感じていました。しかし、この成功が後の失敗に繋がるとは、当時は夢にも思っていませんでした。
入社後に直面した「年収だけでは測れない」壁
意気揚々とA社に入社した私を待っていたのは、想像とは全く違う現実でした。
1. 仕事内容のギャップ: 期待していた裁量の大きな仕事や、自身の経験を活かせる戦略的な業務はほとんどありませんでした。任されたのは、定型的な運用業務や、既存ルールの遵守を徹底するといった、比較的単調な仕事が中心でした。面接で語られた理想と、実際の業務内容には大きな隔たりがあったのです。年収は上がったものの、仕事のやりがいや成長機会は現職よりも大幅に低下してしまいました。
2. 組織文化・風土との不一致: A社は、私が前職で経験したような風通しの良いフラットな組織文化とは異なり、非常に階層が明確で、トップダウンの色が強い組織でした。意思決定プロセスは遅く、自分の意見が反映される機会はほとんどありませんでした。これも、面接や情報収集では見えにくかった部分です。高い年収を得ていても、日々の業務や人間関係に息苦しさを感じるようになりました。
3. 人間関係: 上司や同僚との相性も、残念ながら良いとは言えませんでした。これは個人の問題もあるため一概には言えませんが、チーム内に孤立感があり、助け合ったり気軽に相談したりできる雰囲気ではありませんでした。これも、入社前にはほとんど情報がなく、想定外の要素でした。
これらのギャップにより、私はすぐに「この会社に長くいるのは難しいかもしれない」と感じるようになりました。高い年収のために我慢しようとも考えましたが、やりがいのない仕事、合わない組織文化、息苦しい人間関係の中で働き続けることは、精神的に非常に辛いものでした。結果として、私はA社に1年も経たずに退職し、再度転職活動をすることになりました。年収アップは短期間で実現しましたが、そのために費やした時間、精神的な負担、そして早期退職というキャリアの傷は、決して小さくありませんでした。
失敗から学んだ「本当に見るべき点」
私の失敗は、「年収」という分かりやすい指標だけを追い求め、それ以外の重要な要素を軽視したことにあります。この経験から、30代後半以降の転職において、年収と同じかそれ以上に、あるいはそれ以上に重要であると学んだ点があります。
1. 仕事内容・役割の具体性: 抽象的な職務内容ではなく、具体的な業務内容、期待される役割、仕事の進め方、裁量権の範囲などを、面接や社員面談を通じて徹底的に確認すべきでした。どのようなスキルが活かせるのか、どのようなスキルが新たに身につくのか、具体的なプロジェクトや事例を聞き出すことが重要です。
2. 組織文化・風土: その企業の「当たり前」が自分に合うかどうかは、長期的に働く上で極めて重要です。社員の働く姿勢、コミュニケーションスタイル、意思決定のスピードやプロセス、失敗への許容度などを、複数の社員から聞き取る努力が必要です。カジュアル面談やリファレンスチェックを活用し、本音を引き出す工夫が求められます。
3. 人間関係・チーム構成: 一緒に働く人たちは、日々のモチベーションに大きく影響します。可能であれば、配属予定のチームメンバーと話す機会を設けてもらうのが理想です。どのようなバックグラウンドを持つ人がいるか、チームの雰囲気はどうかなどを確認します。
4. 成長機会とキャリアパス: 入社後にどのような成長機会があるのか、自身のキャリアがどのように発展していく可能性があるのかも重要な視点です。研修制度の有無だけでなく、メンター制度、社内異動の頻度、新しいプロジェクトへの参画機会などを確認します。
5. 企業の安定性・将来性: 年収が高くても、企業自体に安定性や将来性がなければ、長期的なキャリアは描けません。事業の状況、競合優位性、今後の戦略などを、IR情報やニュース、社員からの情報収集を通じて確認します。
これらの要素は、面接の短い時間や企業の公開情報だけでは見えにくい部分が多いです。だからこそ、選考プロセス全体を通じて、またエージェントや可能であれば知人などを通じて、多角的に情報を収集し、深く見極める努力が必要だったと痛感しています。特にカジュアル面談や社員面談は、企業側も本音を話しやすい場であり、積極的に活用すべきでした。
読者の皆様へ
30代後半の転職は、多くの方にとって今後のキャリアを左右する重要な節目です。年収アップは、これまでの経験や市場価値を示す一つの指標であり、もちろん追求すべき大切な要素です。しかし、私の失敗談が示すように、年収「だけ」を追い求めると、入社後に想像もしなかった壁にぶつかり、後悔することになる可能性もあります。
転職先を選ぶ際には、提示された年収だけでなく、仕事内容の面白さ、自身の経験が活かせるか、成長機会があるか、組織文化が自分に合うか、一緒に働く人たちはどうか、といった、年収以外の要素も総合的に評価することが極めて重要です。これらの要素は、自身のやりがいやモチベーション、そして長期的なキャリア形成に大きく影響します。
私の苦い経験が、皆様の転職活動における「本当に見るべきもの」を見つけるための一助となれば幸いです。目先の年収だけでなく、より広い視野で、自身のキャリアにとって何が最も大切なのかをじっくりと考え、後悔のない選択をしてください。