面接では分からなかった組織のリアル。30代後半転職者の入社後ギャップと適応の失敗・成功談
転職活動では見えにくい「組織のリアル」
30代後半での転職は、これまでの経験やスキルを活かし、さらにキャリアを加速させるチャンスです。しかし、理想的な企業に入社できたとしても、思いがけない壁に直面することがあります。それは、入社前に把握しきれなかった「組織のリアル」とのギャップです。
多くの転職活動では、企業の事業内容や個別の業務内容、待遇、一緒に働くことになるであろう一部のメンバーについては情報収集できます。しかし、組織全体の文化、非公式な意思決定プロセス、部署間の連携の深さ、暗黙のルールといったものは、実際にその組織に入ってみなければ分からない部分が多く存在します。
本記事では、私自身が30代後半で転職した際に経験した、入社後の組織に関するギャップと、それにどう向き合ったのか、そしてそこから何を学んだのかについて、失敗談と成功談を交えて正直にお話しします。
入社前に描いていた組織像と、実際のギャップ
私は前職で培った経験を活かし、より裁量権のある立場で新規事業に関わりたいと考え、あるベンチャー企業に転職しました。面接では社長や事業部長と直接話す機会があり、非常に風通しが良く、フラットでスピード感のある組織だと感じていました。実際に提示された条件や任せられる仕事内容も魅力的でした。
しかし、入社後に直面したのは、想像とは異なる組織のリアルでした。
- 意思決定のプロセス: 面接では迅速な意思決定を謳っていましたが、実際には事業部ごとに独自の承認ルートが存在し、想定以上に時間と手間がかかることが多々ありました。特に、複数の事業部をまたぐプロジェクトでは、関係部署間の調整に膨大なエネルギーが必要でした。
- 部署間の連携: 「One Team」という言葉をよく耳にしていましたが、実際には部署間の壁が高く、情報共有が限定的でした。各部署が自身の目標達成を最優先するあまり、全体最適な視点が欠けがちで、協力体制を築くのに苦労しました。
- 非公式なコミュニケーション: 会議だけでは物事が決まらず、非公式な場で根回しや意見交換が重要視される文化がありました。前職が比較的論理的で、公式な場での議論を重視する文化だったため、この違いに戸惑いました。
これらのギャップは、事前に得られる情報だけでは見抜きにくいものでした。特に、面接では企業の「理想像」や「対外的な顔」が強く出る傾向があるため、内情を正確に把握するのは難しいと感じました。
ギャップに戸惑い、空回りした失敗談
入社後の組織ギャップに対し、私は当初、前職での成功体験に基づいたアプローチを試みました。これがいくつかの失敗につながりました。
- 前職の成功法則を押し付けた: スピード感を重視するあまり、既存の承認プロセスを経ずに物事を進めようとした結果、関係部署からの協力を得られず、プロジェクトが停滞しました。「なぜ前職のようにできないんだ」と内心で反発する気持ちもあり、組織への適応を遅らせてしまいました。
- 非公式な場を軽視した: 公式な会議で完璧な資料を用意すれば理解が得られると考えていましたが、重要な意思決定はすでに会議前の非公式なやり取りで方向性が決まっていることがありました。会議で初めて提案を聞く関係者から質問攻めにあったり、前提が覆されたりして、会議が無駄に終わる経験を何度かしました。
- 「なぜそうなっているのか」を理解しようとしなかった: 非効率に思えるプロセスや理解しがたい文化に対し、「おかしい」「間違っている」という感情が先に立ち、その背景にある理由や歴史、組織の価値観を深く理解しようとする努力を怠りました。これが、組織メンバーとの間に溝を作る原因にもなりました。
これらの失敗は、新しい環境を自分の物差しで一方的に評価し、適応しようとするよりも先に否定的な感情を抱いてしまった結果でした。特に、30代後半になり、ある程度の経験と自信があったからこそ、「自分のやり方が正しいはずだ」という思い込みに囚われてしまったのかもしれません。
組織理解に努め、適応の糸口を見つけた成功談
失敗を経験する中で、私はアプローチを変える必要性を痛感しました。まずは「組織を理解すること」に注力しました。
- 積極的に様々な人と話す機会を作った: 自分の部署だけでなく、関係が薄いと思われた部署の人たちにも、積極的に話しかけ、彼らの業務内容や部署の目標、日々の課題について尋ねました。ランチや休憩時間などを活用し、非公式な場で話を聞くことで、組織全体の構造や文化、隠れた人間関係が見えてきました。
- 「なぜ」を深掘りした: 非効率に思えるプロセスに出会った時、「なぜこうなっているのだろう?」と疑問を持ち、背景にある制約や過去の経緯、暗黙の了解などを担当者に丁寧に尋ねるようにしました。理由が分かると、単なる非効率ではなく、過去の失敗を防ぐためであったり、特定の価値観に基づいていたりと、その組織なりの合理性が見えてくることがありました。
- 小さな成果を積み重ね、信頼を構築した: いきなり大きな変革を目指すのではなく、まずは自身の担当領域で着実に成果を出すこと、そして関わる人たちとの間で小さな成功体験を共有することに注力しました。データ共有の仕組みを少し改善する、会議資料のフォーマットを工夫するなど、地道な取り組みでしたが、これが周囲からの信頼を得る足がかりとなりました。
- 頼れるメンターを見つけた: 会社の仕組みや文化に詳しい、信頼できる先輩社員を見つけ、気軽に相談できる関係を築きました。公式な相談窓口では話しにくいような、組織の「本音」や「暗黙の了解」について教えてもらうことができ、適応を助けてもらいました。
これらの取り組みを通じて、私は新しい組織における自身の立ち位置や、どのように貢献できるのかを再定義できるようになりました。また、組織の完璧ではない部分を受け入れつつ、自身の強みを活かすバランス感覚を掴むことができました。
入社後の組織適応から得られた学びと示唆
私自身の経験から、入社後の組織適応において重要なのは以下の点だと考えています。
- 入社前の情報収集には限界があることを認識する: 面接や社員の話だけでは、組織の全ては分かりません。特に文化や非公式な部分は、あくまで参考情報として捉え、過度な期待や決めつけは禁物です。
- 入社後はまず「観察」と「傾聴」に徹する期間を作る: すぐに成果を出そうと焦るよりも、まずは組織の仕組み、人の動き、文化、価値観などをじっくり観察し、様々な人の話を聞くことに時間を使うべきです。なぜこの組織ではこうなのか、という問いを持ち続けることが重要です。
- 自身のやり方への固執を捨てる勇気を持つ: 前職の成功体験は貴重な財産ですが、それが新しい環境でそのまま通用するとは限りません。過去のやり方に固執せず、新しい組織の文化やルールに合わせて、自身のアプローチを柔軟に変えていく必要があります。
- 信頼できる関係性の構築を最優先する: 組織で成果を出すためには、周囲の協力が不可欠です。まずは一緒に働く人々を理解し、信頼関係を築くことから始めるべきです。非公式な場でのコミュニケーションも積極的に活用しましょう。
- ギャップは学びの機会と捉える: 想定外のギャップに直面した時、それをネガティブな「失敗」や「間違い」と捉えるのではなく、「この組織ならではの特徴」「適応のために学ぶべきこと」と前向きに捉え直すことが、精神的な負担を軽減し、前進する力になります。
まとめ
30代後半での転職は、年収や役職だけでなく、働く環境、特に組織文化や構造が大きく変わる可能性があります。面接だけでは見えにくいこれらの要素が、入社後の満足度やパフォーマンスに大きく影響します。
私自身、入社後のギャップに戸惑い、時には失敗も経験しましたが、組織を深く理解しようと努め、自身の行動を修正することで、新しい環境への適応を進めることができました。
もしあなたが今、転職活動中であるならば、企業の対外的な情報だけでなく、そこで働く人々の「生の声」を聞く努力をしてみてください。そして、もし入社後にギャップを感じたとしても、それは決してあなた一人の問題ではありません。焦らず、まずは組織を理解し、信頼関係を築くことから始めてください。リアルな組織の壁を知り、乗り越える経験は、きっとあなたのキャリアをさらに豊かなものにしてくれるはずです。