M&Aで会社が激変。30代後半、予期せぬ転職活動のリアル
予期せぬM&A発生とキャリアへの不安
私が勤めていた会社が、ある日突然M&Aにより他社に買収されることが発表されました。当時30代後半で、その会社には10年近く在籍し、一定の役職も得ていました。キャリアは順調に進んでいると感じており、まさか自分の身にこのような大きな変化が起こるとは想像もしていませんでした。
M&Aの発表後、社内は大きく揺れ動きました。組織体制の変更、評価制度の見直し、早期退職者の募集など、矢継ぎ早に変化が起こりました。特に不安だったのは、統合後の組織における自分のポジションや、これまでの経験が新しい環境でどれだけ評価されるのかという点でした。買収元の企業文化は私の会社とは大きく異なると耳にしており、馴染めるのかという懸念もありました。
このような状況下で、自身のキャリアを会社任せにできないという強い危機感を覚えました。将来の不確実性が高まる中、自身の市場価値を確かめ、必要であれば新しい道を模索する必要があると感じ、予期せぬ転職活動を開始することを決断しました。
不安定な状況での転職活動の開始
何から手をつけて良いか分からない状況でしたが、まずは複数の転職エージェントに登録することから始めました。会社の状況を正直に伝え、今後のキャリアについて相談しました。エージェントからは、M&Aをきっかけとした転職は珍しくないこと、そしてこの状況下での転職は、自身のキャリアプランを見つめ直す良い機会でもあると励まされました。
しかし、実際の活動は想像以上に困難を伴いました。会社の将来が不透明であること、自身の部署がどのように再編されるか分からないことなど、説明できる情報が限られていました。面接では必ずM&Aに関する質問があり、会社の状況と自身の立ち位置、そしてなぜこのタイミングで転職を考えるに至ったのかを論理的に説明する必要がありました。
特に難しかったのは、M&Aによる組織変更をネガティブな理由としてのみ捉えられないようにすることでした。単に会社から逃げ出すのではなく、この変化を自己成長や新たな挑戦の機会と捉え直しているという姿勢を示すことが重要だとエージェントからアドバイスを受け、自己PRや志望動機に反映させるよう努めました。
市場価値の再認識と直面したギャップ
転職活動を通じて、自身のこれまでの経験やスキルが外部の市場でどのように評価されるのかを改めて知る機会を得ました。同業他社や異業界の企業と話す中で、自分の強みだと思っていた点が必ずしも高く評価されない一方で、意外な経験やスキルが関心を引くという発見もありました。
例えば、私が所属していた部署は特定のニッチな分野でしたが、その専門性と長年培った業界ネットワークは、同業他社からは一定の評価を得られました。しかし、異業界や異職種を検討した際には、専門性よりも汎用的なビジネススキルやマネジメント経験、問題解決能力などが問われることが多く、自己PRの方法を大きく変える必要がありました。
また、M&Aという不安定な状況下での転職活動は、企業側から見ると「組織についていけないのではないか」「何か問題があるのではないか」といった疑念を持たれる可能性もゼロではないと感じました。こうした見えない壁を乗り越えるためには、自身のキャリアの一貫性や、変化への適応力を具体例を挙げて説明する必要がありました。提示される年収やポジションが、自身の希望やこれまでの経験に見合わないと感じるケースもあり、現実とのギャップに直面することも多々ありました。
困難を乗り越えた経験談と学び
転職活動は半年近くかかり、精神的にも肉体的にも負担の大きいものでした。書類選考で立て続けに不合格になったり、面接で会社の状況説明に窮したりすることもありました。しかし、この困難な時期にいくつかの重要な学びを得ることができました。
一つは、自身のキャリアの軸を再確認することの重要性です。予期せぬ変化の中で、自分が何を大切にしたいのか、どのような環境で働きたいのか、将来どのようなキャリアを築きたいのかを深く内省する機会となりました。これにより、単にM&Aからの逃避ではなく、より前向きな理由で転職活動に取り組むことができるようになりました。
また、M&Aという経験そのものを、自身の成長の機会として捉え直すことも重要でした。大規模な組織変革期に身を置いたことで得られた視点や経験（例えば、不確実性の高い状況での情報収集と判断、変化への対応力、異なる文化を持つ組織間のコミュニケーションの難しさなど）は、他の環境ではなかなか得られない貴重なものです。これらを具体的に説明することで、面接官に自身の経験の希少性や対応力をアピールすることができました。
複数のエージェントを活用したことも有効でした。それぞれのエージェントから異なる視点でのアドバイスや求人情報が得られ、幅広い選択肢を検討することができました。特に、M&Aに関する企業の懸念を払拭するための面接対策や、自身の経験を効果的に伝えるためのレジュメのブラッシュアップは非常に役立ちました。
内定獲得と入社後のリアル
最終的に、M&Aの状況や自身のキャリアプランを理解し、私の経験を評価してくれる企業から内定をいただくことができました。年収は微減となりましたが、自身のキャリアの方向性と一致しており、入社後の成長が期待できる環境だと判断し、入社を決めました。
入社後、すぐに前職のM&A経験が直接役立つわけではありませんでしたが、変化への抵抗感が少ない点、不確実な状況下でもある程度冷静に状況を把握しようとする姿勢、そして新しい環境への適応力といった側面で、M&Aを経験したことが活きていると感じています。また、M&Aという共通の経験を持つ同僚とは、より深いレベルで共感し合えることもあります。
一方で、入社後のギャップもゼロではありませんでした。企業文化の違い、仕事の進め方の違いなど、戸惑うこともありました。しかし、これもまた予期せぬ変化への対応力を養う機会と捉え、学び続ける姿勢で取り組んでいます。
予期せぬ変化から得た教訓
M&Aという予期せぬ出来事がきっかけでの転職活動は、決して容易な道のりではありませんでした。しかし、この経験を通じて、自身のキャリアに対するオーナーシップを持つことの重要性、不確実性の中でも自身の価値を見出し、変化を成長の機会と捉えることの意義を強く実感しました。
もしあなたが今、M&Aや組織再編といった予期せぬ状況に直面し、キャリアの岐路に立っているとしても、悲観的になる必要はありません。自身の経験やスキルを棚卸しし、市場価値を冷静に見極め、そしてこの変化から何を学び、次にどう活かせるのかを考える絶好の機会だと捉えてください。困難な状況だからこそ得られる経験があり、それは必ず次のキャリアへの糧となるはずです。正直に状況を伝えつつも、前向きな姿勢で臨むことが、新しい道を見つける鍵となるでしょう。