成長を求めて。30代後半の大手からのスタートアップ転職で直面した想定外のリアル
なぜ30代後半で大手からスタートアップへ転職したのか
私は30代後半で、長年勤めた日系大手企業から、社員数十名規模の成長期スタートアップに転職しました。安定した環境でのキャリアを歩んできましたが、日々の業務に物足りなさを感じるようになり、もっと大きな裁量を持って事業を推進したい、変化のスピードが速い環境で自己成長を加速させたいという思いが強くなりました。
大手企業では組織の歯車の一部である感覚が拭えず、意思決定プロセスも非常に時間がかかります。自分のアイデアや提案が実現するまでに多くの壁があり、スピード感を持って事業を動かすことの難しさを感じていました。一方、スタートアップは少人数で大きな事業を動かし、個人の貢献度が高いと聞いていました。まさに私が求めている環境だと考えたのです。
特に、そのスタートアップが手掛けていた事業領域は、今後の社会に大きな影響を与える可能性を秘めていると感じていました。このようなエキサイティングな環境に身を置き、自らの経験とスキルを活かして事業成長に貢献したいという強い動機が、転職活動に踏み切る大きな原動力となりました。
転職活動の実際：大手企業との違いと選考の壁
転職活動は、主に転職エージェントを活用しながら進めました。大手企業への転職活動とは異なり、スタートアップの選考プロセスは独特な部分がありました。
書類選考では、大手企業での実績や安定したキャリアよりも、これまでの経験を通じて「何を考え、どのような課題を解決し、どのような成果を出してきたか」という具体的なストーリーと、スタートアップで働くことへの明確な意欲、そして変化への適応力が重視されていると感じました。職務経歴書では、抽象的な表現を避け、具体的なプロジェクト名や数字を交えながら、自身の貢献度と学びを明確に記述することを心がけました。
面接では、スキルや経験の深堀りはもちろんですが、「なぜ大手からスタートアップなのか」「なぜこの会社なのか」「スタートアップで働くことの厳しさを理解しているか」といった、カルチャーフィットや覚悟を確認される質問が多かったです。大手での経験は、信頼性や基本的なビジネススキルがあることの証明にはなりましたが、それだけでは不十分で、「この会社で何をしたいのか」「どのような価値を提供できるのか」を情熱を持って語る必要がありました。
苦労したのは、年収交渉でした。大手企業では年功序列や明確な給与テーブルが存在しましたが、スタートアップでは個人の貢献度や市場価値、そして会社の資金状況によって大きく変動します。事前の調査やエージェントとの綿密な連携を通じて、自身の希望年収を伝えましたが、最終的に提示された金額は、前職から大きく上がるわけではなく、むしろ多少下がる結果となりました。しかし、年収以上に得られる経験や成長機会に期待していたため、その条件で入社を決断しました。
入社後に直面した「想定外のリアル」
期待に胸を膨らませて入社しましたが、すぐにいくつかの「想定外のリアル」に直面しました。
まず、組織体制の未整備です。大手企業のような明確な組織図や役割分担はほとんどなく、良く言えば柔軟、悪く言えば混沌とした状態でした。自分の役割が日によって、あるいは時間によって変わることも珍しくなく、当初思い描いていた「特定の領域で専門性を発揮する」というイメージとは異なりました。
次に、業務内容のギャップです。大手では専門チームが担当していたような、いわゆる「泥臭い」定型業務や雑務も、チーム全体、時には個人でこなす必要がありました。高度な戦略立案や意思決定に関わる機会は確かにありましたが、それと並行して、手作業でデータを集計したり、簡単なデザインを作成したりといった、幅広い業務が求められました。当初は戸惑いましたが、「事業を前に進めるためには何でもやる」というスタートアップ特有のマインドを肌で感じることになりました。
また、評価制度やキャリアパスの不明確さも想定外でした。目標設定や評価基準が頻繁に変わり、自身の成長や貢献がどのように評価され、今後のキャリアに繋がるのかが見えにくい状況でした。大手企業のような長期的なキャリアプランを描くことは難しく、良くも悪くも常に変化に適応していく必要がありました。
人間関係も、大手とは全く異なります。少人数であるため、良くも悪くも距離が近いです。フラットな人間関係は魅力的でしたが、一度関係性が悪化すると、それがチーム全体の雰囲気や業務効率に影響を与えやすい側面もありました。また、創業期からのメンバーと中途入社組との間に、無意識の壁が存在することを感じる場面もありました。
これらのギャップに直面し、「本当にこの選択で良かったのか」と自問自答する日々が続きました。特に、大手時代の同僚が安定したキャリアを歩んでいる様子を見ると、後悔の念が湧くこともありました。
困難を乗り越えるための適応と学び
直面した困難に対して、ただ立ち尽くすのではなく、積極的に適応しようと努力しました。
まず、マインドセットの転換です。「完璧に整備された環境で、決められた役割を果たす」という大手企業的な考え方を捨て、「不確実性の中で、自ら問題を見つけ、解決策を考え、実行する」というスタートアップ的なマインドに切り替えました。役割が不明確ならば、自分で必要な役割を作り出す、業務が泥臭くても、それを効率化・自動化する方法を考える、といった具合です。
次に、コミュニケーションの重要性を再認識しました。少人数だからこそ、情報の共有や意見交換が密に行われる必要があります。積極的にチームメンバーと対話することで、互いの状況を理解し、連携を強化しました。特に、期待値のズレを防ぐために、自分の役割や進捗状況、困っていることなどをオープンに伝えることを意識しました。
また、変化への対応力が鍛えられました。組織体制や戦略が頻繁に変わる環境では、常に新しい情報を取り入れ、柔軟に考え方や行動を修正していく必要があります。この経験は、ビジネスパーソンとしての基礎体力を大きく向上させてくれたと感じています。
スタートアップ転職で得られたもの、今思うこと
多くの想定外の困難に直面しましたが、このスタートアップ転職で得られたものも非常に大きいです。
最も大きかったのは、圧倒的な成長実感です。与えられた役割だけでなく、事業全体を自分事として捉え、多様な業務にチャレンジする中で、新しいスキルや知識を吸収し、問題解決能力が飛躍的に向上しました。大手企業では経験できなかったような、事業の立ち上げ期や急成長期に関わる貴重な経験も積むことができました。
また、裁量権の大きさも魅力です。自ら提案し、スピーディーに実行に移せる環境は、大きなやりがいを感じさせてくれます。自分の行動が事業にダイレクトに影響を与えることを実感できるのは、スタートアップならではです。
この転職を経て、私にとっての「成功」の定義も変わりました。単に年収や役職が上がることだけが成功なのではなく、自分が心から面白いと思える事業に主体的に関わり、自身の成長を実感できることも、重要な成功の要素だと考えるようになりました。
後輩へのアドバイス：スタートアップ転職を成功させるために
もし30代後半でスタートアップ転職を検討されている方がいれば、私の経験からいくつかのことをお伝えしたいです。
まず、「なぜスタートアップなのか」を徹底的に自問自答することです。漠然とした成長意欲だけでなく、スタートアップ特有の混沌や不確実性、泥臭い業務を許容できるか、変化への対応力を楽しめるか、といった覚悟が必要です。面接でも必ず聞かれる点であり、自身の覚悟を再確認する良い機会となります。
次に、情報収集は多角的に行うことです。企業のウェブサイトや求人情報だけでなく、社員のSNSやブログ、イベントでの情報収集、可能であればカジュアル面談を通じて、企業のリアルな雰囲気や文化を感じ取ることが重要です。特に、入社後にどのような業務が発生しうるのか、組織体制はどのようになっているのかなど、具体的なイメージを持つように努めてください。
そして、期待値マネジメントです。華やかなイメージだけでなく、資金繰りの大変さ、突然の方向転換、評価制度の不透明さなど、厳しい現実も存在することを理解しておく必要があります。良い面も悪い面も理解した上で、それでも挑戦したいと思えるかどうかが、後々のギャップを乗り越えられるかの鍵となります。
私のスタートアップ転職は、多くの想定外がありましたが、結果として私にとって良い経験となりました。しかし、これは万人に当てはまるわけではありません。自身のキャリアにおいて何を最も重視するのか、どのような環境であれば力を発揮できるのかをじっくりと考え、リアルな情報に基づいて判断することが大切です。