30代後半、地方へのU/Iターン転職の現実。年収、キャリア、生活の変化と後悔
30代後半、U/Iターン転職を選んだ理由
都市部でキャリアを積んできた30代後半のビジネスパーソンが、地方へのU/Iターン転職を検討する背景には、様々な要因があります。私の場合は、結婚を機に妻の地元への移住を考えるようになったこと、そして都市部の喧騒から離れ、より落ち着いた環境で子育てをしたいというライフプランの変化が主な理由でした。
しかし、30代後半という年齢での転職は、キャリアへの影響を無視できません。役職もつき始め、年収も上がっていた状況で、地方の求人事情や自身の市場価値がどうなるのか、不安は大きいものでした。理想だけでなく、現実的な厳しさがあるだろうと覚悟はしていましたが、実際に活動を始めて直面した現実は、想像を超えるものでした。
U/Iターン転職活動で直面した壁
活動を開始してまず感じたのは、都市部に比べて圧倒的に求人数が少ないということです。特に、これまでの経験(例えば特定業界の専門職やニッチなコンサルティングスキルなど)を直接活かせるポジションは限られていました。転職サイトで見つかる求人は、業種や職種が偏っているか、募集要項が曖昧なケースも少なくありませんでした。
次に、年収の現実です。都市部での年収を維持、あるいはそれ以上を期待するのは、非常に難しいことを痛感しました。提示される年収レンジは、私のこれまでの経験やスキルからすると、大幅に下がるものがほとんどでした。地方の企業は、都市部の大企業のような給与水準ではないことが多く、自身の市場価値を地域に合わせて見直す必要がありました。ある企業の面接では、「あなたの経験は素晴らしいが、当社の給与テーブルには合わない」と正直に言われ、自身の市場価値が地域によって変動する現実を突きつけられました。
エージェント活用も試みましたが、都市部の大手エージェントは地方の求人情報に詳しくない場合が多く、地方に強いとされるエージェントは求人数自体が少ないというジレンマがありました。最終的には、地元のハローワークや自治体の移住・就職支援窓口、そしてインターネット上の地域特化型求人サイトなどを組み合わせ、手探りで情報を集めることになりました。
書類選考の通過率は都市部での転職活動時よりも低く、面接まで進んでも、地方企業の文化や事業内容への深い理解、そして「なぜこの地域で働きたいのか」という熱意を強く問われました。単なる「移住したいから」ではなく、地域への貢献意欲や、その企業でなければならない理由を説得力を持って伝えることの重要性を学びました。
成功と失敗、入社後のリアル
紆余曲折ありましたが、幸いなことに私は地方の企業から内定を得ることができました。これまでの幅広い業務経験や、プロジェクト推進力、そして地域経済への関心を示すことで評価いただけたのだと思います。年収は都市部から約20%ほどダウンしましたが、生活コストの低下や通勤時間の短縮などを考慮し、受け入れる判断をしました。
入社してまず感じた「成功」は、ワークライフバランスの大幅な改善です。通勤時間が片道2時間から20分になり、夕食を家族と一緒に摂れる日が増えました。地域のイベントに参加したり、自然の中でリフレッシュしたりする時間も増え、精神的なゆとりが生まれました。また、会社規模が小さくなったことで、経営層との距離が近くなり、自身の提案が通りやすくなったこと、任される業務範囲が広がったことも、やりがいにつながっています。都市部では歯車の一つだったのが、ここでは自身の貢献をよりダイレクトに感じられるようになったのは、大きな変化でした。
一方で、「失敗」あるいは「後悔」と感じる点もいくつかあります。最も大きいのは、やはり年収ダウンによる経済的な影響です。想定はしていましたが、貯蓄ペースの鈍化や、将来的な教育費・老後資金への漠然とした不安はつきまといます。また、キャリアアップの選択肢が限られているという現実にも直面しています。専門性をさらに深めたい、あるいは特定の役職を目指したいと思っても、地域内にそうした機会が少ない可能性があることを覚悟する必要があります。
その他にも、買い物の不便さ(特に特定の専門品など)、公共交通機関の少なさ、地域コミュニティへの馴染み方など、事前に想像していた以上に戸惑うこともありました。都市部の多様な情報や刺激から離れたことによる、良くも悪くも「世界が狭くなった」感覚を覚えることもあります。
U/Iターン転職から得られた学びと示唆
私のU/Iターン転職経験から、特に30代後半の方が検討する際に重要だと感じた点をいくつか挙げさせていただきます。
まず、「なぜ地方でなければならないのか」という動機と、その地域・企業への熱意を明確にすることです。単に都市部から逃れたい、というネガティブな理由だけでは、企業側も採用に踏み切りにくいでしょう。自身のキャリアと、地域のニーズ、そして個人的な価値観がどのように合致するのかを言語化することが不可欠です。
次に、年収やキャリアパスに関する現実を冷静に受け止める覚悟です。多くのケースで年収ダウンは避けられないでしょう。重要なのは、下がる金額だけでなく、地域での生活コストや得られるワークライフバランス、精神的な豊かさといった、総合的なメリット・デメリットを比較検討することです。また、将来的なキャリアの「横の展開」(地域内での異業種転職など)や、副業・フリーランスといった働き方も視野に入れる必要があるかもしれません。
情報収集においては、都市部の大手媒体に頼りすぎず、地域の情報源を積極的に活用することをおすすめします。ハローワークや自治体の移住支援窓口は、地域密着の情報やネットワークを持っている場合があります。また、可能であれば事前に短期滞在してみたり、地域住民や先輩移住者から話を聞いたりすることも、現実を知る上で非常に役立ちます。
そして、家族との十分な話し合いと合意形成が最も重要です。転職先だけでなく、生活環境、子育て、親との距離、将来の不安など、家族全員が納得できるまで話し合う必要があります。私の場合は、家族の理解があったからこそ、入社後の困難も乗り越えられています。
まとめ
30代後半でのU/Iターン転職は、これまでのキャリアを大きく方向転換させる選択です。年収やキャリアアップの機会が限定されるなどの厳しい現実もありますが、ワークライフバランスの改善、地域貢献の実感、人間関係の変化といった、お金だけでは得られない価値を見出すことも可能です。
重要なのは、理想論だけでなく、具体的な情報収集を通じて現実をしっかりと把握すること。そして、自身のキャリアや人生において何を最も重視するのか、家族を含めて深く考え、納得のいく選択をすることです。私の経験が、U/Iターン転職を検討されている方の、現実的で役立つ判断の一助となれば幸いです。